Blood of Devil -1.5-

「それにしても……」
は突然襲いかかってきて、現在は腕の中で眠る男を見下ろした。
白い肌と対照的に黒衣に身を包んでいる。
人間にしては中々強い男だった。
低級の悪魔ならば簡単にあしらえるだろう実力を持っていた。
扱っていたのが日本刀というのが彼女に僅かばかりの親近感を沸かせた。
漆黒の髪が遥か懐かしい前世を思い出させる。
そういえば、攻撃の途中で彼は「貴様」と言った。
その言葉に釣られてもつい日本語で返してしまったのだが、ここが日本だとでもいうのだろうか。
は男をまじまじと見る。
「……ないな」
日本ではない、ありえないというのが彼女の出した結論だった。
そもそも彼女の知る日本は銃刀法というものが存在した。
辻斬りよろしく、背後から日本刀で襲いかかられるはずがないのだ。
さらにいうなれば男の恰好だ。
こんな全身レザーの微妙な――この際彼女は自分と弟の恰好を棚に上げた――恰好でいい歳した大人で外を闊歩できるような神経を日本人が持っているだろうか。
しかも半袖全身黒レザーはコスプレではなく、おそらく彼の普段着だ。
コートの馴染み具合を見ればわかる、これは日常的に着用されているものだ。
伊達に双子揃ってレザーコートを着用しているわけではない。
海外から散々「恥の文化」や貞淑、控えめと評価されていたような国の人間が、こんな自己主張の激しい服を日常的に着ているはずがない。
むしろ前世日本人だったからすれば、元とはいえ、同じ人種であってほしくない。
よく見れば顔の造形も西洋人よりに見える。
斬りかかって来たときは鬼の如き形相だったが、こうして黙っていれば美しい白磁人形のようだ。
男なのに無駄に睫毛が長いのが気になる。
特に下睫毛は、何処のマスカラを使っているのかと問い詰めたくなるほど、一本一本が長く美しい弧を描いていた。
自前なのだろうか、この睫毛。
自前だったら全国の女性に謹んで譲ってあげてほしい。
「日系か」
日本語や日本刀を使っていたということは、おそらく日本人の血も流れているのだろう。
もしかしたら極度の日本オタクなのかもしれない。
の男に対する視線が途端に生温くなる。
いい歳した男性が、パンク紛いの恰好で日常を過ごし、さらには日本オタクが過ぎて道端で日本刀を振るっているのか。
彼女は何も言わなかったが、半裸コートの弟を見る並みに優しくなった瞳がすべてを語っていた。
美形で強い男というものは、何処か頭のネジが外れているのかもしれない。
の、トシマのカリスマに対する印象が決定づけられてしまった瞬間だった。