きょうのわんこ その1

スラム街にある事務所。
双子の姉弟と共にここで暮らしているのが、ケルベロスです。
ご主人は弟のダンテさんですが、ケルベロスはご飯をくれるお姉さんが大好き。
家では家事をするお姉さんの後ろをいつもついて歩いています。
でも二人がお仕事をしている時は、大抵事務所でお留守番です。
そんなケルベロスのお仕事は、二人がいない時に事務所に来た低級悪魔を凍らせること。
テメンニグルの門番をやっていただけあって、低級悪魔を瞬間冷凍するケルベロス。
でも偶には武器としてご主人に使ってほしいケルベロスなのでした。

レディはテレビ画面を見ながら、思わず頬を引き攣らせる。
噴き出したコーヒーを拭きながら、何やってんのこいつらと画面の向こうの知り合いに呟いた。
後日ペットがテレビデビューしたと嬉しそうに微笑む女友達に、それは犬(ペット)じゃなくて悪魔だと、どうしてもつっこむことができなかったレディだった。



きょうのわんこ その2

スラム街の事務所に住む一匹のわんこ。
これが、ベオウルフです。
プライドが高いベオウルフは、散歩もご飯もご主人と一緒にすることはありません。
そんなベオウルフの日課は、ご主人の部屋の窓からじっと外を眺めること。
窓から見えるスラムの通りを歩いてゆく人たちを観察しているのです。
いつもはつまらなそうに外を見ているベオウルフですが、ご主人が外に出たのが見えると背筋を伸ばして見送ります。
そしてご主人が帰ってくるのが見えると、短い尻尾をぶんぶんと振るのです。
それでもご主人の前ではやっぱり素直になれないベオウルフなのでした。

「このツンデレわんこめーー!!」
あははうふふと、お花畑が背景に見えそうな空気にレディは硬直し、ダンテは頭を抱えた。
顔を背けながら満更でもなさそうな表情のベオウルフを抱え、彼女は楽しそうに笑っていた。



どようびのにゃんこ

マレット島にあるお城の一室。
沢山の兄弟たちと一緒に暮らしているのが、シャドウです。
シャドウはご主人であるネロ・アンジェラさんが大好き。
ご主人が城内を移動する時は、いつも周りを二匹の兄弟たちと囲んで歩いています。
兄弟は二十匹以上いるので、その日ご主人に着いて行く三匹を決めるのも命懸けです。
そんなシャドウの趣味は、城をうろつくマリオネットに噛み付くこと。
でも噛み付きすぎて何体もマリオネットを壊すので、時々ご主人に怒られてしまいます。
しょんぼりとコアを出しっ放しにしていじけていると、仕事が終わったご主人がコアに衝撃を与えないように頭を撫でてくれます。
一緒にお部屋に帰ると、仕事着である鎧と兜を脱いだご主人にすり寄って眠るシャドウなのでした。

「ダンテ! テレビ! 今すぐテレビつけなさい! 早く!!」
「はあ? 何なんだよ一体……って姉貴ーーーー!!?」
トリッシュが現れるよりも先に、何処にあるかもわからないマレット島へと向かうことになったダンテであった。



子ネロ日記

げつようび はれ


きょうはがっこうのテストがかえされた。
おれはちゃんとまい日しゅくだいをやってるから、らくしょーだった。
おなじクラスのやつが「おれ52てんだったぜ」っていばってた。
バカだ。
100てんをとったから、おかあさんが「きょうのゆうはんはネロのすきなものにしてやろう」って言った。
なにがいいかきかれたので「おかあさんのごはんはおいしいから、なんでもいい」って言ったら、すごくよろこんでた。
おかあさんがよろこぶと、おれもうれしい。
これからもべんきょうがんばろうとおもう。
またテスト100てんとったら、よろこんでくれるかな?
きょうのゆうはんはいつもよりいっぱいだった。
オムライスとハンバーグとエビフライとコーンスープだった。
ぜんぶおいしかった。
ダンテもすごくおどろいてた。
「なんかのいわいごとか?」って言ってた。
「ネロがテストで100てんとったからな」っておかあさんが言うと、ダンテはわらって「ネロはははおやにだな」って言った。
あとできいたら、おかあさんににてるっていみらしい。
おれはおかあさんが大すきだから、すごくうれしい。

ごはんをたべおわったあとで、ダンテが「パパといっしょにふろでもはいるかー?」って言った。
おかあさんがあきれたかおでみてた。
おれもおかあさんのおんなじようにあきれたかおをした。
ダンテは「そんなところまでになくてもいいとおもうんだけどな」って言った。
ほっぺたがぴくぴくしてたのがおもしろかった。



かようび くもり


がっこうからかえったら、おかあさんがにもつをかばんの中に入れてた。
でていっちゃうのかとおもっておれはあわてて「おいてかないで!」って言った。
おかあさんはびっくりしたようなかおで「だいじょうぶ、ネロをおいてでていったりしないよ」ってわらった。
でもおしごとがあるから、すこしだけおでかけするんだって。
おれもいきたいっておかあさんに言ったら「だめだ」って言われた。
がっこうがあるからつれていけないって。
すこしぐらいがっこうにいかなくてもだいじょうぶなのに。
そう言ったら、「おしごとだからあぶないんだ」っておかあさんは言った。
「ダンテはおいてくから、ちゃんとごはんはたべさせてもらいなさい」言われた。
ごはんをたべてるかみに、ときどきレディもくるんだって。
でもレディがつくるごはんはにがかったりしょっぱかったりする。
ダンテはおかあさんがいないとピザとストロベリーサンデーばっかりたべてる。
おかあさんがいないのに、どうやってごはんたべればいいんだろう。
おれはまだりょうりできないし。
おかあさんがかえってきたら、りょうりをおしえてもらおう。
おかあさんはベオウルフとやまととかばんをもって、おしごとにいった。

ダンテはおかあさんがおしごとにいくってしらなかったみたいだ。
おかあさんをさがしてたからおしごとだっておしえたら、ダンテはなきそうになった。
なんだかかわいそうになったので、あたまをなでてやった。
ケルベロスが「あわれだな、あるじ」って言った。
あわれってどんないみなんだろう?
あとでおかあさんかレディにきいてみようとおもう。



すいようび くもり


てんきがわるいから、あんまりたのしくない。
おかあさんがいない。
あさごはんはシリアルだけだった。
ヨーグルトもフルーツもなかった。
ダンテにもんくを言ったら「あねきのやつ、おれにはんなもんださないってのに……」って言ってた。
ほんとはダンテがちゃんとあさおきないから、おかあさんはだしてないだけなのに。
「もっとはやくおきろよ」って言ったら、ダンテはへんなかおをした。
「おれはよるにしごとがあるから、あさおきるのはおそくていいんだよ」って言った。
でもおかあさんだってよるにおしごとしてるのに。
おかあさんはいつもちゃんとあさおきて、おいしいごはんをつくってくれる。
「じゃあおかあさんは?」ってきいたら、ダンテはなんにも言わなかった。
がっこうにいくときに、「いってきます」って言ったけど、ダンテはソファでねながらてをふるだけだった。
おかあさんの「いってらっしゃい」がきこえない。
そとにでてうえをみても、まどにはベオウルフがいない。
ベオウルフは、いっつもおれががっこうにいくときこっちをみてる。
おれがてをふるとへやの中にいっちゃうけど、おれががっこうにいくまでみてるんだって。
おかあさんがおしえてくれた。

ゆうはんはピザだった。
おかあさん、はやくかえってこないかな。



もくようび あめ


きょうはあめだった。
そとであそべない。
つまんない。
ほんをよんだ。
とちゅうでわからないことばがあったから、レディにきいた。
レディはちゃんとおしえてくれた。
ダンテにきいたら「ほんなんてちょっかんでよむもんなんだぜ」って言った。
だからおかあさんにバカっていわれるんだとおもう。
レディにむかしのはなしをしてもらった。
いまはちゃんとふくをきてるけど、ダンテははだかにコートきてたんだって。
ダンテはバカだとおもう。
おかあさんはただしい。

レディがつくったごはんは、やっぱりにがくてしょっぱかった。
ダンテは「しごとがあるから」ってごはんをたべなかった。
ずるい。
おかあさん、はやくかえってきて。



きんようび くもり


おかあさんがかえってきた。
うれしいうれしいうれしい。
おみやげもくれた。
「ネロがいいこでおるすばんしてたから、とくべつな」って言ってた。
おみやげはじゅうだった。
ダンテがもってるのとはかたちがちがう。
おおきさもちっちゃい。
でも、ダンテのじゅうはおもいから、おれにはまだこれぐらいでいいんだって。
いっかいにろっぱつしかうてないんだって。
「あくまがでたらつかえ」っておかあさんは言った。
でもがっこうのみんなにはみせちゃだめだって、おかあさんは言った。
「なんで」ってきいたら「あぶないから」って言った。
これはほんもののじゅうだから、ほかのみんながさわったらけがをするかもしれない。
がっこうにはもっていってもいいけれど、ちゃんとかばんの中にしまっておきなさい、って。
ほんとはみんなにみせたかったんだけど、けがはしてほしくないからうなずいた。
おかあさんがだめって言ったら、だめなんだ。
おかあさんがいないときのはなしをした。
ダンテがはだかコートだったのもはなした。
「ほんとに?」ってきいたら「ああ」っておかあさんは言った。
こんどダンテのしゃしんをみせてくれるって言った。
おかあさんのしゃしんもあるんだって。
ダンテのはだかコートもみてみたいけど、おかあさんのしゃしんもみたい。
レディもいっしょにうつってるって言ってた。
たのしみだ。
きょうはねるまえにじゅうになまえをつけよう。
かっこいいのをかんがえなきゃ。

ゆうはんはおかあさんがつくってくれた。
やっぱりおかあさんのごはんがいちばんおいしい。
ダンテも「やっぱりうまいな」って言いながらおかわりしてた。
おれもおかわりした。
おかあさんはわらってた。