終わりと始まり

全身に走る衝撃と激痛に悶えることさえもできずに、私は地面に叩きつけられた。
コンクリートに横たわりながら車が逃げるように走り去っていくのが見えた。
周りに人は見えない。
声も出せそうにない。
喉を通る息の音がひどくくぐもっている。
霞んでいく視界に赤い血が地面を濡らしていくのが映った。
痛い苦しい悔しいお父さん母さん助けてどうして私が
何もかもがわからなくなって意識が遠ざかる、ああなんて呆気ない幕引き。

気づいた時には生暖かい液体の中にいた。
不思議と息苦しさは感じなかった。
それどころか何故だか酷く心が安らぐ。
目も耳も満足に働かない。
体を通して鼓動の音だけが感じられる。
自分の小さな鼓動と大きな鼓動、そしてすぐ近くにある自分と同じくらい小さくて、それでも力強い鼓動の音。
三つの音が私の中を満たしている。
どこかで誰かの優しい笑い声を聞いた気がした。

急に意識が呼び起こされる。
周りはもうあの温かさはなかった。
左側がやけに寒い。
それが酷く悲しくて寂しくて、目が熱くなる。
喚くような声が聞こえて、自分は今泣いているのだとわかった。
手足が上手く動かない。
感覚すらもひどく遠い。
ふわりと、急に浮遊感に襲われる。
目の前には鮮やかな金色。
「どうしたの、私の愛しい子。ああ、ほら泣かないで」
宥めるような穏やかな女性の声に、あの笑い声が重なる。
そして私はあの温かな場所に戻れないことを悟って、また泣いた。
。可愛い私の娘、どうか泣きやんで、ね?」
私の声につられた様に、もう一つ泣き声が上がった。
悲しい哀しいカナシイかなしい。
私は再び生を得てしまったのだ。
抱きしめてくれる腕は胸が苦しくなりそうなぐらいに優しかった。