Life with puppy
店を開くため土地と建物、その他細かいものに金を払ったら、通帳の残高が綺麗に消えた。
これは由々しき事態だとは密かに頭を抱えていた。
危機感を覚えながらも、全く金がない理由はわかっている。
ダンテが働く気を見せないからだ。
定期的に桃屋でバイトをしているの稼ぎでどうにか食べていられるものの、貯金が一切ないのは心もとない。
経理を預かる者として、大きな弟を抱える姉として、どうにかせねばなるまい。
そんな思いから、街角に置いてある求人のフリーペーパーを持ってきて目を通しているのだが、中々条件の良いものが見つからない。
何せ此処はスラム街、女の仕事と言えばそれこそいかがわしいサービス業が殆どである。
かといって昔の、それこそ十に満ちるかどうかの子供の頃にしていたような仕事は、にとって最も避けたい道だ。
生活はできる、十分な金も入るだろう。
こんな世の中だ、需要だって嫌になるくらいある。
だがこの仕事は、ダンテに嗅ぎつかれては困るのだ。
しかし、いくら隠してもどうせばれてしまうのだろう。
ならば弟の悲しむ顔は見たくない。
結局、地道に後ろ暗くない職を探すしか他に道はないのだ。
「それ、面白いのか?」
ダンテがソファで求人雑誌を読むの横に座って、ひょいと紙面を覗きこむ。
勢いよく座ったせいか、ソファが軋んだ音を立てた。
は邪魔な弟の頭を一瞥して、すぐに視線を雑誌に戻す。
このニートめが!と罵ってやりたくもなるが、取り敢えずはうるさくなければどうでもいい。
彼女は弟の甘えたがりに対しては、放置する方向だった。
だがつまらなそうなダンテが肩に顎を乗せて懐き出すと、流石にうっとおしい。
「ダンテ」
雑誌を読む間ぐらいは大人しくしていろと目で訴えるも、逆に構われて嬉しそうな顔をされる。
「なんだよ」
子犬のような瞳が眩しい。
構え構えと大きく振れる尻尾が見えるようだ。
額に手を当てふぅと息を吐き出した。
日頃愚かだの露出狂だのと罵ってはいるものの、結局弟に甘い自分をは自覚している。
雑誌をテーブルに投げ出すと、嬉しそうにダンテが太腿の上にうつ伏せの状態で頭を乗せた。
脚の上を堪能しているダンテを好きにさせたまま、は甘えてくる弟の髪を撫でる。
あまり手入れがされていない筈なのに手触りがいいのは半魔の血のおかげだろうか。
柔らかい髪質は母譲りだろう。
いつの間にか腰を抱きしめるようにダンテの腕が回されているのも気にせずに頭を撫で続ける。
そろそろ自分の髪も長く邪魔になってきたので切りたいのだが、さて長い髪を気に入っているダンテがそれを許すだろうか。
早々に反対されるのは予想できたのではどうしようかと考える。
実は、家事以外では手先がひどく不器用で、自分の髪を結うことさえ苦手なのである。
すると頭を撫でる手が止まっていたのか、ダンテが上半身を起こして姉の顔を覗き込んだ。
「どうした姉貴、なんあったのか?」
そんな反応も子犬のようでは自然と笑みを浮かべる。
「ああ、気にするな。大したことじゃない」
すぐ近くにある頬に口付けると嬉しそうな、だが良からぬ空気を漂わせた笑みが返ってくる。
「どうせキスするならさ、頬じゃなくて」
するりと腰にあった腕が背中を撫でながら移動し、そっと頭の後ろに回る。
普段長剣と拳銃を操る骨ばった掌はそっと頬に添えられ、親指が下唇を撫でた。
「こっちにしてくれよ」
の抗議の声は呼吸ごとダンテの唇に吸い込まれた。