愛おしき絶望
カーテンの隙間から差し込む日の光で目が覚めた。
白く染まる視界と軋む身体に眉を眇める。
上体を起こして日差しを避けるためカーテンに手を伸ばすと、どうにも動けない。
ぼやけた意識で視線を下に向けると、腰に逞しい腕が絡みついていた。
彫刻のような腕から肩へ、そのまま顔へと視線を移す。
高く通った鼻梁に閉じられた瞳、いつも皮肉気な笑みを湛える唇は穏やかな弧を描いている。
自分と同じ銀色の髪と睫毛は光を浴びて、美しく煌いた。
腰に巻きついた腕を外そうとやんわりと触れるが、固い筋肉に昨夜を思い出す。
この腕に、抱かれた。
私はこの男に抱かれたのだ。
実の弟に。
下腹部が鈍痛を訴える。
「、っ!」
胎内からどろりと、昨夜の残滓がこぼれ出す感覚に唇を噛んだ。
声を出してはいけない。
ダンテが起きてしまう。
刺激さえしなければ、朝食の時間までは目覚めないだろう。
ことさらゆっくりと体を起こして腕の中から抜け出す。
思っていた通り体には何も纏っていなかった。
部屋にこもる独特の臭いに身を震わす。
ベッド横の床に足を付けて立ち上がると、内股から太腿に掛けて赤と白の混じった液体が伝った。
恐らくシーツにも赤黒く昨夜の証が残っているだろう。
それは罪だった。
私たちは生まれた時から悪魔であったが、確かに人でもあった。
しかし昨夜の行為は人として許されないことだった。
「……ごめんね」
行かなくては。
何処か遠く、これ以上私たちが罪を重ねなくていい場所まで。
卑怯なことだとわかっている。
ダンテを残して私は一人で逃げるのだ。
服を取ろうとベッドに背を向けた瞬間、強く腕を掴まれた。
そのまま後ろに引かれてシーツに尻を付く。
「どこに行く気だったんだ?」
いつもより低い、けれど聞きなれた声が耳に染み込む。
慌ててはいけない、気取られてはいけない。
何でもない風を装って声を出す。
「……腕を離せ、服を着たい」
「答えろよ」
嘘は吐けない。
すぐに気づかれてしまうだろう。
私たちは二人で一つ、繋がっているのだから。
双子、なのだから。
「抱かれた翌朝に一人でベッド出て、謝ったとくれば俺だってわかるさ」
特に姉貴のことだからなと、冷たく吐き出された言葉が胸を刺す。
何処まで行っても、私は姉なのだ。
それを知りながら抱いたダンテと抱かれた私、どちらも等しく罪深い。
「逃げるくらいなら、なんで大人しく抱かれた? なんで抵抗しなかったんだよ」
そう、私は抵抗しなかった。
無理矢理ではない、押し倒されはしたが受け入れたのは私だ。
罪と知りながらも、心の何処かで望んでいたから。
私も同じだった。
私も愛していた。
私も愛している。
血の繋がった双子の弟を。
ダンテのことを。
「逃がすと思うか? なぁ、」
『男』の顔で嗤う弟に心臓が締め付けられる。
嗚呼、それは何と甘い束縛か。
回される腕の重みを禁忌と知りながら、そのまま身を委ねたくなる自分に泣きたくなった。
私の感情の動きが伝わったのだろう、ダンテは低く笑った。
美しく、悪魔のように。