二つの魂
「力を手に入れても父さんにはなれない」
父のような偉大な悪魔にはなれない。
そんなことお前に言われずとも――
「わかっている……」
剣を握った手に力を込める。
閻魔刀のような力を感じるわけではない、小さな剣だ。
『フォースエッジ』と名付けられた剣は、これ一つでは普通の剣に過ぎない。
二つのアミュレットを合わせることで、父の力を得ることができる。
「だが、私には成すべきことがあるのだ!」
私はダンテに斬りかかった。
理解されようとは思っていない。
それでも、私は家族を、ネロとダンテを守りたいのだ。
母を殺した魔帝から。
そのためには力が要る。
伝説の魔剣士と呼ばれた父の力が、私には必要だった。
迎え撃つように出された剣を、持っていた剣でなく左手で掴む。
ダンテも同じように、手から赤い血を滴らせ刃を受け止めていた。
「俺達がスパーダの子供なら、受け継ぐべきなのは力なんかじゃない!」
私たちが半魔で傷がすぐに治るといっても、痛みは感じる。
手に食い込んだ剣は、ダンテが本気で私を止めようとしていることを示すように、少しずつ肉を抉る。
だがダンテの手も同じようなものだろう。
私は、決して退かない。
「もっと大切な――誇り高き魂だ!」
もっとも父に似ているのはダンテだろう。
そんな弟が誇らしく、なによりも悲しい。
ムンドゥスのことを知れば、この弟は何が何でも魔界へ向かい、戦おうとするだろう。
優しいダンテ、人間であろうともがく哀れな弟、人間を守ろうとする半魔。
人の中に混じりながらも孤独に震えている。
今までも悪魔と戦っていながら血に目覚めなかったのは、ダンテ自身が無意識に拒んでいたからだろう。
そんなダンテを巻き込むことはできなかった。
だからこそ、本来ならばこの塔にも来させるつもりなどなかったのだ。
血に目覚めていないままでは、死んでしまうだろうとわかっていたから。
それだけは、避けなければならない。
「その魂が叫んでる」
たとえ、そう――
「あんたを止めろってな!」
私が死ぬことになろうとも。
「悪いが、私の魂はこう言ってる」
あの日、母を殺したのが魔帝ムンドゥスと知った時から思っていた。
魔帝は再び現れ、スパーダに連なる者を殺そうとするだろう。
まずは私とダンテ、そして息子であるネロにも危害は及ぶかもしれない。
守らなくてはいけない、そのためには、
「――I need more power !(もっと力を!)」
力なき正義は無力だと、昔何処かで聞いたような気がする。
この世界ではそれが常識なのだと、悲しいぐらいに知っている。
だから私は今度こそ、姉として、そして母として、家族を守り抜くための力を得る。
「双子だってのにな」
悲しげな声が響く。
それでも私は揺らがない。
人間としての『』は全てネロに預けてきた。
私の左手にかつて輝いていた指輪は、ない。
「ああ――そうだな」
剣を静かに構える。
私の中にはもう、迷いはなかった。
たとえダンテを、愛する人をどれだけ傷つけることになっても、もう後戻りはできないのだから。
私は一匹の、強き力を持った悪魔になりたい。