ねこねここねこ
は貴族然としたクールな外見に反して、可愛いものをこよなく好んでいる。
女性であるという点を差し引いても、その傾倒の仕様は類を見ないほどである。
中でも特に動物、犬猫その他小動物から大型動物まで問わず、己の感性に訴えかけるものがあれば悪魔ですらも庇護の対象に入れることを厭わない。
日頃容赦なく悪魔を愛刀の元、ざっくりすっぱりと斬り捨てる姿とは大違いである。
また、動物もの溢れんばかりの愛情がわかるのか、大抵の獣型の生き物は彼女に懐く。
ちなみにこの現象を間近でよく見るダンテとレディは『対動物フェロモン』やら『獣ホイホイ』と呼んでいる。
その効果が悪魔、しかも敵対しているモノや他に忠誠を誓うモノであっても関係なしに発揮される辺りがの恐ろしい所である。
彼女は自分に動物が懐いてくれることにいたく感動し、更に動物愛を深めていく。
彼女の荷物には常に各種動物の餌と高級ブラシなどが用意されているのは、の知人友人間では最早当たり前のことである。
毎朝Devil May Cry事務所横の路地でが猫に餌をやっている姿は、荒れたスラム街の中でも一種の名物として多大な恐怖と共に語られている。
曰く、Devil May Cryの住人を知らない荒くれ者たちがに絡んだ時の話だというが、下手で下品なナンパに、始めは何も答えず無視を貫いていた彼女だったが、に擦り寄ろうとした子猫を蹴ってしまった時、彼らの命運は決定してしまった。
一番穏便な話でも、両手足を折って街のど真ん中に放置したというものなのだから、それ以上の内容は推して知るべし。
噂を聞いたレディが尋ねた所、当の本人は笑って否定したが、実際に何人かがそれを目撃したという話もある。
真相は闇の中、不確かな噂だけが独り歩きしている。
さて、そんなであるが、動物と同じかそれ以上に愛しているものが家族だ。
現在には双子の弟で恋人でもあるダンテと、その息子だが戸籍上はの子どもとなっているネロの二人の家族がいる。
二人はを慕い愛しているし、も二人にそれこそ溺れさせんばかりの勢いで愛を注いでいる。
だが双子であるダンテとまだ幼いネロとの対応に差が出るのは当然のこと、息子には言い聞かせるだけのところを弟には閻魔刀時々拳が飛ぶ。
鉄拳制裁どころか真剣が出る割合が高いのは、この双子にのみ成立するコミュニケーションなので仕方がない。
まあダンテはそれを当然どころか喜々として受け入れている節があるので、需要と供給が見事に成り立った結果とも言えよう。
そんな姉からならば罵声暴力何でもOKなダンテであったが、唯一受け入れられないことがあった。
放置プレイである。
「ああ、ネロ、どうしてお前はこんなにも可愛いんだ」
ほうっと、恍惚に満ちた声が桜色の唇から零れ落ちる。
氷色の瞳に映るのは、膝の上に乗せられた息子ただ一人。
隣に座るダンテのことなど見えていないどころか、すっかり忘れているのではないだろうか。
「うう〜……」
大好きな母親の膝に乗せられて嬉しい半面、その言葉に男子としてのプライドを突かれ、ネロは赤く染まった顔を伏せた。
ぴょんぴょんと跳ねている家族共通の銀色の髪からにょきっと顔を出しているのは、ふさふさと毛の生えた三角形の柔らかい耳。
ズボンの隙間からは細い尻尾が伸びている。
そう、猫耳&尻尾リターンである。
何時ぞやダンテの頭頂部と尾てい部に生え、双子それぞれに困惑と幸福を振りまいたそれが、今回はまだ五歳の息子に生えたのだ。
その事実に喜んだのはである。
いや、喜んだという言葉では生ぬるい。
彼女は文字通り、狂喜乱舞した。
猫耳と尻尾に困惑するネロの脇を両手で掴んで抱き上げ、そのままクルクルと事務所内を踊っていた。
その行動の異常さは、思わずダンテが現実逃避に走ったほどである。
あれ、俺の姉ちゃんと息子が、あれー?
最後には、まあ姉貴が楽しそうだからいいかという結論に落ち着いたあたり、少しも軸はぶれていないが。
「かあさん……、ダンテみてるから……」
恥ずかしげに膝の上で身を捩っているが、積極的に離れようとはしない。
はそんなネロの動作に身悶えている。
三角の耳がぱたぱたと動く様子が愛らしい。
「ネロは嫌か?」
「ぃやじゃないけど……」
ネロの心情がダンテには何となくわかる。
実際数年前に自分の身にも降りかかったことだ。
いつもの数倍は甘いに甘やかされるのは嬉しい、が恥ずかしい。
可愛いと言われるのは好きじゃないが、大好きな母親が喜んでいるのを見ていると何も言えない。
そんなところだろう。
またの気持ちも理解できないまでも、予測することはできる。
ただでさえ可愛がっている息子に猫耳尻尾がついているのだ。
可愛い×可愛い=もう死んでもいい
そんな方程式が浮かんでいるのだろう。
二人の心情はわかる。
だが、放っておかれるのとそれはまた別問題なわけで。
「っつーか、お前らどこのカップルだ!!」
ダンテは目の前で繰り広げられる親子の会話に、思わずつっこんだ。
男女配役が逆な、いかがわしい会話にしか聞こえないのは何故か。
の顔がこれ以上ないほど熱に浮かされ恍惚としているせいだ。
ダンテの脳内がいつもR-18でいかがわしいピンク色なせいではない、多分、恐らく、きっと。
「「なにが?」」
親子二人の声が被る。
きょとんとした表情を見る限り、さっきの会話は素のようだ。
首を同時に同じ方向にちょこんと傾げてダンテを見る。
何この二人ちょうかわいい。
ダンテも例に漏れず家族二人が大好きであった。
ちっちゃい方は家族的な意味でだが、おっきい方は性的な意味で。
「……自覚がないならいいデス」
ダンテは妥協した。
彼が姉のことで妥協するのは相手がネロの場合だけだ。
そのことだけでもダンテがネロを可愛がっていることがわかるのだが、生憎ネロ本人には伝わっていないらしい。
「だったらさいしょからいうなよ、ばかおやじ」
五歳児のものとは思えぬ辛辣な言葉がダンテに突き刺さる。
「そう言ってやるな。それの馬鹿は元からだ、手遅れだ、治しようがない」
更にフォローにならっていない棘だらけの言葉が追い打ちをかける。
悪意はないのだろう言葉が逆に痛かった。
「そういえば、これ、なおるかな……」
ふと不安になったのだろう、ネロの耳と尻尾が落ち込んだ気分に合わせてしょぼんと項垂れる。
自分で思いついたことに本気で落ち込む姿に、は内心慌てながらもその愛らしさに悶える。
「さてなぁ、もしかしたら一生そのままかもしんねーぞぉ?」
と言ったのは、素早く立ち直ったダンテ。
にやにやと笑みを浮かべている。
こういう子どもっぽいことをするから無碍に扱われるのだと気付くべきだ。
「大丈夫、治るさ。きっと明日にはもうなくなっている」
とは、ダンテの頭を殴りつけたの言葉だ。
ネロをあやしながらも瞳は残念そうにふさふさの耳と尻尾を追っている。
事実、以前ダンテに耳と尻尾が生えた時は翌日にはもう消えていたので、ネロもそうなることだろう。
「ああ、でも勿体ないな……」
こんなに可愛いのにと、はため息をつく。
「ダンテの時といい、今日といい、本当に可愛いのに……」
すぐに消えてしまうであろう耳を撫で、ついでに尻尾も指で梳く。
「ダンテも?」
「よぉしネロ、今日はパパと遊ぶかぁ?」
何が悲しくて自分に猫耳尻尾が生えた時のことを聞かされなくてはならないのか。
ダンテがそう思ったかは定かではないが、彼は話を逸らすように立ち上がっての膝の上にいたネロを抱きかかえた。
もあまり教育によろしい内容ではないかと、思い出して口を噤む。
「どうせだ、遊んでもらえ」
代わりにと口にした言葉にネロが大変嫌そう、どころか絶望と表現しても過言ではない顔をしたのが印象的だった。
翌日、ネロの耳と尻尾は消えたが、息子に心底拒絶されダンテの心についた傷は消えなかった。
一周年リクエスト企画「半魔家族でほのぼの」イリス様