漢前コンビと悪魔のダンス

公園のベンチに金・黒・銀と色とりどりに並んで座る三人がいた。
ぱっと見は只の金髪にバーテン服の男、フルフェイスのヘルメットを被ったバイクスーツ、銀髪の外人女性と場違いでちぐはぐな組み合わせにしか映らないだろう。
だが彼らには一つの共通点と呼べるものがある。
三人が三人、池袋でそれなりに高い知名度を誇っているのだ。
お蔭で夕方であるとはいえ、公園には他の人影は一切なく、公園に入ってこようとするカップルや若い集団はベンチに並ぶ顔ぶれに回れ右をしてゆく。
別段怒らせなければ恐ろしいことなどないのだが、池袋の喧嘩人形の暴れっぷりを日常的に見ている住民からすれば近づかないに越したことはないと判断したのだろう。
そんな傍から見れば危険の塊のような組み合わせであったが、三人は互いに友人であった。
『そういえば前々から気になっていたんだが……』
「何がだ?」
差し出されたPDAには先を促すように首なし騎士、デュラハンであるセルティを見た。
悪魔はともかく妖精の友人は初めてだとが笑ったのは少し前のことである。
「どうした?」
静雄も女性陣二人の会話に興味を持ったのか、セルティの肩越しにPDAを覗き込む。
セルティは滑らかな動きでPDAのキーを叩き、少し戸惑った後、ではなく静雄に画面を向けた。
「あん?」
咥えていた煙草の灰がPDAに落ちないよう指で挟んでから、静雄は画面を覗き込む。
画面に表示された文字に眉を寄せ、姿勢を前に向けた。
「聞いてみたらいいんじゃねえか?」
俺が聞くのはやっぱり失礼になるからさ、セルティなら大丈夫だよと、隠しきれない好奇心を覗かせながらも人のよい笑みで彼は言った。
セルティはその言葉に励まされたようにうんうんと何度も黄色いヘルメットを縦に振ると、に画面を向けた。
青い瞳に整然と並んだ文字が映し出される。
は今何歳なんだ?』
思わぬ角度からの質問にはあっけに取られた。
そういえば思い返してみると、周囲も双子がそれなりに年嵩だということは発言から読み取ったのだろうが、まだ誰にも実年齢を明かす機会はなかった。
特に明かす必要もなかった。
疑問に思われるのも当然だろう。
ましてやとダンテの外見は実年齢から想像するよりもかなり若々しい。
特にダンテなどは一時無精髭を生やしていたのだが、その頃よりもむしろ若く見える程だ。
逆に言えば、髭でも生やさない限り年相応に見えない顔つきをしているということでもある。
「そんなに気になっていたのか?」
確かに外見から年齢を判断するのは難しいだろうとは納得したが、前々からという程気になるものだろうかと首を傾げる。
『友達のことだから知りたいと思うのは普通だと思う』
セルティは不思議そうなに意気込んで画面を見せるが、その後に慌てて、『でも言いたくないならいいんだぞ!?』と打って差し出した。
友達という言葉の響きにはくすぐったさを覚える。
「静雄も、気になるものか?」
「まあ、な」
女性には年齢を聞くものではないという教育がしっかりなされているのだろう、言い難そうだがやはり気になるものらしい。
としては特に隠しているつもりはないので、何のためらいもなく口を開いた。
「まあ、もう五十路手前だな」
改めて言うと恥ずかしいなと、は照れたように笑う。
「は?」
『は?』
口をぽかんと開けた静雄と、表情は見えずとも空気だけでも固まっているのがわかるセルティ。
隣の二人が硬直していることに気付いて、は困ったように眉を寄せた。
「やはり友人がこんなおばさんというのは嫌だったか?」
二人が揃って首を勢いよく横に振る。
静雄は兎も角、セルティの方はいつヘルメットが飛ぶかわからないので首の往復運動を止めさせた。
ただでさえ注目されている組み合わせなのに、これ以上視線を集めるようなことは避けたい。
「いやいやいやいや、ちょっと待てよ」
既に殆ど灰と化した煙草を咥えなおした静雄のこめかみを汗が伝う。
無駄にサングラスを上げて確かめるように言う。
「五十路手前って、五十歳手前ってことだよな?」
「そうだが?」
何かおかしいのかと言わんばかりにきょとんと静雄とセルティを見る氷色の目に嘘はない。
セルティのPDAを打つ手が荒ぶる。
が森厳とほぼ同年れくぁwせdrftgyふじこlp』
「それが誰かわからないし、後半は読み取れないんだが……」
慌てるセルティに補足するように静雄が口を挟んだ。
「あー、つまり俺の親とかと同年代ってことかってセルティは言いたいんだよ」
ふむとは静雄を見て、優しい笑みを浮かべながら頷いた。
母親のような慈愛に満ちた笑みだった。
「そうだな、息子と歳の近い子と友人というのは、やはり少し照れる」
本日二度目の衝撃が二人を襲った。
「息子!? いるのか!!?」
『子ども産んだのか! いつだ、いつ産んだ!! 相手は誰だ!!? おめでとう!!』
どうにも混乱している二人には笑いを隠せない。
特にセルティのパニック具合がつぼに入ったようだ。
口元を隠し横を向きながらくつくつと笑う。
「いや、二人とも、落ちつけ」
合間合間に笑いながら情報を処理しきれないらしい友人二人に声を掛ける。
それでもわたわたと慌てた様子の二人がやけに可愛らしく感じられた。
はセルティの背中をぽんっと軽く叩き、ついで静雄の腕にも手を触れた。
「もう大丈夫か?」
二人を見る目があまりにも微笑ましいものを見るような優しい目で、セルティと静雄は恥ずかしそうになりながらも大人しくなった。
「子どもと言っても私の実子ではなくてな、若い頃に、お恥ずかしながら不祥の弟がどこぞの女性を孕ませたらしくて、事務所の前にその赤ん坊が捨てられていたんだよ」
書類上は私の息子だし私もそう思ってるんだがなと、彼女は笑う。
「今は静雄よりも少し上だな。えーと、たしか……」
は財布を取り出すと中から紙幣ではなく、一枚の写真を引っ張り出した。
ほれと、セルティと静雄に渡されたそれには少し癖のある銀髪の青年がこちらを向いて笑っている。
もう一枚と更に渡された写真の中には少し幼い青年と、やはり銀の髪をした女性が写っていた。
「これって、か?」
「ああ、そっちは十年近く前のものだけどな」
写真の中で青年と並んだ姿は、親子というよりかは歳の離れた姉弟のようだ。
現在の姿と写真の姿を比べても、殆ど容姿に変わりのない、むしろ今の方がより一層妖艶さを増しているように見える。
「あれだ、時代劇のなんかのキャラでさ、お銀っていなかったか?」
『由○かおるか……』
五十を超えても殺陣を続ける彼の女優のように、きっとこの友人もいつまでも若々しいままなのだろうなぁと二人は同時に思った。
『あと、戦闘民族は若い時間が長かったはずだ』
「ああ、サイヤ人か」
某超有名漫画に出てくるキャラクターを思い浮かべ、何となく納得する。
流石に頭に超が付く様な姿には変身できないだろうが、それに近いことはやってのけそうだ。
実は半人半魔の双子が完全に姿を悪魔化できたりすることを、セルティと静雄は知らない。
もう何を言われようとに関してのことならば驚くまいと決意を固めたのは真っ当な流れだろう。
そのやり取りをわけがわからないと言いたげに眺める話題の本人を置いて、二人は静かに友情を深めた。



一周年リクエスト企画「Drrrトリップの話で静雄&セルティの漢前コンビとの話」 うに様